〇広島市佐伯区於いて 2018年10月11日起業のタナカ株式会社
代表取締役 田中 正之の今回は週刊東洋経済2019.6.15「書評」➀&
中国新聞朝刊19年6月16日付「読書」〈著者に聞く〉➀’に於いて、注目点を探り
➁へと展開してまいります。
➀:〈評者〉BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎
買い物、夕食の注文など生活の多くをスマホアプリで完結する人も多い。
デジタル経済で利便性は著しく向上した。
その負の側面として、経済格差の拡大とともに指摘されるのが、〈租税の捕捉漏れ〉だ。
アマゾンなど米国の巨大IT企業は、日本を含め米国外で税金をあまり払っていなかった。
自国でビジネスを展開する外国企業の税を捕捉できなければ、社会保障など必要な財源も
確保できない。 税を払う自国企業との公平性の問題も生じる。デジタル社会にふさわしい
税制をいかに構築すべきか、第一人者が論じた。
ことの発端は、米国のスターバックスがタックスヘイブン(租税回避)を利用し、
英国(アイルランド)で税金をほとんど納めていないことが露見したことだった。
デジタル起業は、付加価値の中核が無形資産にあるうえ、それを低税率国に移転すれば、
租税の捕捉はさらに困難になる。・・・。
今後、ビッグデータが付加価値の源泉の主流となれば、税の捕捉はもっと困難になる。
本書が提案するように、将来は、無形資産(反対:有形資産)に課税する必要がある
だろうが、現在はまだ理論的な整理段階にある。
国際協調に関しては、巨大IT企業を自国に抱えるトランプ政権が企業よりの立場を
鮮明にし、各国政府と対立するのが現状だ。
耐え切れなくなった欧州各国は、米IT企業への独自課税を開始していて、
これは興味深いことに法人所得課税から消費課税への転換である。
今年6月28日~29日にかけてG20大阪サミットでは、デジタル課税が大きなテーマ
の1つで、議長国の日本の力量が試される。中国プラットフォーム企業の台頭を
意識すれば、先進国内では合意が可能うだろうか
このテーマについては、個人も当事者だ。 日本でもアプリ経由で労働力を提供する
クラウドワーカーが増えているその多くは雇用ではなく、請負の契約形態を取る。
※「政策提言」
《今年10月1日の消費増税で10%へと米中貿易戦争での景気動向では》
今後、働き方改革で副業が盛んになれば、税制、社会保障などのセーフティーネットで
公平性を担保する必要がでてくる。付加価値の源泉となる人的資本の蓄積にも配慮した
包括的な改革が不可欠であろう。
➀’「GAFA課税 ルール作りを」著者:1950年広島市中区生まれ。東京財団政策研究主幹、
中央大法科大学院特任教授。著書に「日本の税制 何が問題か」など。
「修道中高(広島市中区)で学んだ6年間に勉強する習慣が身に付いた」と振り返る。
デジタル社会の加速でもう一つ懸念するのが雇用への影響だという。
人口知能(AI)に人が仕事を奪われ、大量失業の恐れがあるという。
新たな社会保障制度の検討が必要だと著書で訴える。(日本経済新聞出版社)
➁ はじめに
アメリカの神学者ラインホルド・ニーバー(1892~1971)の
「平静の祈り(Serenity Prayer)」とも呼ばれ、さまざまな場所で引用されています。
生活、仕事、健康状態など、私たち自身や私たちを取り巻く環境には、
変えられることと、変えられないことがあります。
この言葉にあるように、両者の見定めは、私たちが何を目標にし、その目標をどのように
達成すれば良いかを考えるうえで極めて重要となります。
この言葉を目にした時、高齢期の認知機能の問題にも同じことが当てはまると
感じました。 特に記憶機能に関しては、記憶力の維持や、低下した記憶の改善など、
さまざまな情報が氾濫しています。
本書は、加齢により刻々と変化する私たちの記憶について、変えられることと、
変えられないことを見極めるために、加齢と記憶に関するこれまでの膨大な研究から
明らかになった知見を紹介することを目的とします。
私の専門は心理学です。その中でも、意識、注意、感情、記憶、意思決定といった
人の情報処理の仕組みを扱う認知心理学を専門としています。
加齢が認知機能に及ぼす影響を明らかにするための心理実験や、脳イメージング装置
による記憶の際の脳活動の測定、認知症など脳疾患のある方を対象とした記憶機能の研究に
20年近く携わってきました。
「もの忘れが多くなりました」
「記憶にはまったく自信がありません」
私の研究に参加される多くの高齢者が、記憶の実験前にこう口にします。
多くの人が加齢とともに記憶力の低下を感じますが、すべての記憶機能が
衰えるわけではありません。
記憶には、加齢の影響を受けやすいものと、高齢になっても維持されるものがあります。
私たちの記憶が加齢でどのように変化するのか、正しい知識を持つことが、高齢期の記憶の
問題に適切に対応するためには不可欠です。
そのため、本書の第1章では「衰える記憶」と「衰えない記憶」について解説。
「人の名前が覚えられない」ことと「火の元の消し忘れが心配」であることは、
同じ記憶の問題でも対処の仕方が異なります。人の名前を覚えるには、
〈相手に関心を持つ〉、〈メモをとるといったちょつとした工夫〉で解決できるかも。
一方で、火の元の消し忘れは命に関わるため、この問題の解決で記憶力に頼ることは
得策とは言えません。そこで第2章では、人の記憶の特徴をふまえ、衰える記憶への対処
について述べます。・・・。
第5章 高齢期の記憶の役割
〇物質的な環境で幸福感は説明できない
〇人生の受容に影響する重要な記憶
おわりに
精神科医であるフランクルが、ユダヤ人であるために強制収容所に入れられ、
その際の経験を心理学視点から捉えた『夜と霧』という有名な本があります。
収容された仲間たちの精神的な崩壊を防ぐために、彼が仲間たちに語った内容を
見てみましょう。フランクルは詩人の言葉をまず引用し、そのうえで語りかけます。
「あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない」
わたしたちが過去の充実した生活のなか、豊かな経験のなかで実現し、心の宝物として
いることは、なにもだれも奪えないのだ。
そして、わたしたちが経験したことだけでなく、わたしたちがなしたことも、わたしたちが
苦しんだことも、すべてはいつでも現実のなかへと救い上げられている。
それらもいつかは過去のものになるのだが、まさに過去のなかで永遠に保存されるのだ。
なぜなら、過去であることも、一種のあることであり、おそらくはもっとも確実な
あることなのだ。
先がみえない状況の中、収容所での強制労働やガス室送りという不条理な死だけでなく、
将来的に長生きすれば誰にでも発症する可能性のある認知症のような不条理な病気への
不安を軽減する言葉なのかもしれないと思います。
このような言葉によって現状を変えることはできませんが、物事の捉え方を変える
ことはできます。
認知症は怖い病気ですが、なりたくてなる人はいません。そして、認知症が進行し、
自分の記憶から過去の大切なことが失われても、その人が成し遂げた事実は
大切な誰かが代わりに記憶していたり、文章として残すこともできます。
第5章で述べた 高齢期の発達課題の提唱者:エリクソン教授の人生で自分が
何を選択しどう行動したかだけ立脚しているのではなく、これからも未来に向けて自分を
覚えてくれる世代にもその基盤を置いている(エリクソン『老年期』)としています。
「死にざまは生きざま」という言葉があります。人生の最後の時期である高齢期を
どう過ごすか、故人がそれを死んだ後に思い出すことはできません。
ただ、残された家族や友人はその経験を鮮明に記憶し、その記憶は、生きている糧
になることも、死を恐怖の対象として刻むこともあります。・・・。
記憶を個人だけでなく誰かに引き継いでいけるものと捉えると、たとえ認知症に
なったとしても、それ以前の自分のことを覚えてくれる人の存在が、自分が
自分であったことを担保してくれるのかもしれません。
引き継がれた記憶が次の世代に影響を与えると考えると、高齢期の記憶に対処するという
ことは、単に記憶力を高めるだけでなく、どのように記憶されたかを考えて
生きていくことになるかもしれません。
『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ著、小川仁央訳)「絵本」には、
次のような場面があります。
みんなから慕われていたアナグマが死んでしまった後、残された友達が、
どのように悲しみを埋めていくのかを語っています。
アナグマが残してくれたもののゆたかさで、みんなの悲しみも、きえていました。
アナグマの話ができるたびに、だれかがいつも、楽しい思い出を、
話すことができるように、なったのです。(中略)
「ありがとう、アナグマさん。」 増本 康平
2018年12月25日初版
2019年5月15日 3版
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